延命治療その1~人工呼吸
朝からの突然の呼吸困難で病院に運ばれたおばあちゃんは、既に低酸素血症で危険な状態に陥っていました。お医者様から「見た目よりずっと危険な状態で、このままの状態であれば今夜が山です」との説明を受け、回復しなかった場合の治療法、つまり延命治療をするかどうか「早急に考えておいてください」と言われてしまいました。
近ごろは食欲が落ち、多少の衰弱は見られたものの、素人目には、直ちに命に係わる状態に見えませんでしたので、この急すぎる展開に、夫も私も戸惑いました。
その時点でおばあちゃんは100パーセント濃度の酸素を吸入していましたので、それで回復しなければ、それ以上酸素を取り入れることができず、生命を維持する事ができません。
人工呼吸は、口や鼻からチューブを入れる気管挿管と、喉に穴を開けてチューブを入れる気管切開があり、気管挿管は抜去事故や肺炎を起こす危険があるため、長期に及ぶ場合は気管切開を行うとのことでした。
平均寿命も迎えていない比較的若い人が、病気や事故で一時的に呼吸困難を起こした場合や、、多少長引いたとしても回復の見込みがある場合は、躊躇することなく気管切開してもらい体力の回復を待つでしょう。
認知症のおばあちゃんの場合、チューブを引き抜こうとするのは確実で、すでに肺炎も起こしていたため、気管切開するしかないというのが先生の見解でした。そして、気管切開したとしても、そこからまた抜こうとする可能性があるため投薬で意識をぼんやりさせる事になるとも言われました。つまり、おばあちゃんにとって人工呼吸器をつける事は、本当に、延命以外の何物でもないということです。
おばあちゃんは、夫の母親ですので、決断は夫に任せました。
そこまでして延命するのは本人にとって苦痛でしかないので、延命はしません。
それが夫の出した結論でした。
そんな覚悟を決めさせられたその日、夕方には容体が比較的落ち着いてきたので取りあえず帰宅し、夜中に電話が鳴らないことを祈りつつ休みました。
翌日、朝から病院に出向いた夫が目にしたのは、ベッドに横たわったまま看護師さんに悪態をつくおばあちゃんの姿でした。おばあちゃんは一晩で山を越え、すっかり元気を取り戻していたのです。前日の、あの覚悟は一体・・・。
さすがの生命力に感服し、まずは一安心。とりあえず人工呼吸器をつける必要はなくなりました。