義父母は日本尊厳死協会の会員だった
認知症が進んでから、おばあちゃんの日用品は嫁である私が、通帳などの貴重品は一人息子である夫が管理していました。
人工栄養による延命治療の選択を迫られる中、夫がある会員証を私に見せました。義父母が入会していた日本尊厳死協会の会員カードです。貴重品の中に保管されていたようです。
一緒に保管されていた『尊厳死の宣誓書(Living Will)』には、10年ほど前の日付で義父母の署名があります。それは義父が亡くなる少し前で、悪性リュウマチを患っていた義父が、恐らく、遠からず来ると感じていた最期の身の処し方を考えて入会されたのでしょう。誇り高い義父らしい事だと思いました。
宣誓書は次のようなものです。(抜粋)
①徒に死期を引き延ばすための延命措置を断ること。②ただし、麻薬などの副作用で死ぬ時期が早まったとしても、苦痛を和らげる処置は最大限に実施してほしいこと。③数か月以上にわたり、いわゆる植物状態に陥った時は、一切の生命維持措置をとりやめてほしい事。
署名捺印した宣誓書の原本は協会に保管され、代わりに送られてくるコピー2部のうち、1部は本人、もう1部を信頼できる親族などに保管してもらうよう記載されていました。
結局、義父は延命選択の余地なく急に亡くなってしまったのですが、おばあちゃんの宣誓書のコピーは2部とも封筒に入ったまま保管されており、この度初めて、じっくり読む事となったのです。
おばあちゃんの署名捺印もありますので、認知症になる前のおばあちゃんの意志であることに違いありません。となると、人工栄養による延命もお断り、ということでしょう。しかし、大切な家族が、食べられない事の他は今まで通りに見える場合、人工栄養を断るのはなかなか難しいことです。この署名を見ても、夫は延命を断る決断はできませんでした。
実際のところ日本では、この『宣誓書』に署名していたとしても、それに基づいて医師が患者を死に至らしめることは法律で認められておらず、また家族に反対されることも多いため、本人の強い意志が確認できないかぎり、医師は延命措置を取るようです。法律で認められていないのであれば当然でしょう。
しかし、急病や事故で突然、本人の意思を確認しないまま延命治療の選択を迫られる場合は別として、長患いや老衰で先のことを考える時間の余裕があり、本人が望むのであれば、できるだけその意思は尊重される方が良いとも思います。ところが実際にはその実現が難しいため、宣誓書の1部を信頼できる親族に渡すよう記載があるのでしょう。つまり、その意志を第三者にしっかりと伝えて、お願いしておく必要があるという事だと思います。
延命治療をするかどうかは、家族にとって非常に重い選択です。たとえ法的に力が無いとしても宣誓書に署名があれば、本人が尊厳死を望んでいるとの証になります。「延命治療をしない」という、より重い選択をする家族の心の負担を、いくらか軽くするに違いありません。
結局のところ、延命するかどうかは、家族に委ねられます。元気なうちに、たびたび話し合って、自分の意志をしっかり伝えておくことが大切であるようです。